小胞体ストレスは遺伝子変異やタンパク質の修飾異常等により、小胞体内に異常タンパク質が蓄積することによりおこる。小胞体ストレスにより誘導される細胞のアポトーシスは神経変性疾患や糖尿病の原因となっていることが近年明らかになっている。申請者らは小胞体ストレス時に発現誘導され、アポトーシスの関与が知られている転写因子CHOPの機能解析を進めており、その過程で、ショウジョウバエにおけるキナーゼ様分子TribblesのヒトでのホモログTRB3が小胞体ストレスにより発現誘導され、小胞体ストレスで誘導されるCHOP及びATF4依存的にTRB3プロモーターの活性を増加させることがわかった。生合成されたTRB3はCHOP及びATF4の転写活性を抑制し、ネガティブ・フィードバック機構が存在することを見出した。さらに、TRB3の過剰発現は小胞体ストレスによる細胞死を増強させ、逆にTRB3のノックダウンは細胞死を減少させた。さらに、CHOPとTRB3間の機能的関連性を検討したところ、免疫沈降法によりTRB3がCHOPと細胞内で結合していることが明らかにとなった。TRB3の過剰発現によるCHOP依存性転写活性化の抑制はタンパク分解非依存的であった。また、TRB3発現はCHOPのダイマー形成能やDNA結合能にも影響を与えなかった。しかし、TRB3はCHOPの転写活性化ドメインを介して結合し、CHOPにおける転写共役因子p300との結合領域がTRB3結合領域とオーバーラップしていた。さらに、TRB3の過剰発現によりCHOPのp300との結合は顕著に阻害された。以上の結果より、TRB3はCHOPのp300結合ドメインに対する細胞内アンタゴニストとして機能し、CHOPの転写を抑制することが示唆された。また、ATF4はTRB3の過剰発現によりその安定性の低下が確認されたとともに、CHOPと同様の制御機構により、転写活性が低下していたものと思われる。特に、ATF4の下流には生存に必要な標的がいくつか知られていることから、TRB3によるATF4転写活性の阻害が小胞体ストレスに伴うアポトーシスに大きく貢献している可能性が考えられた。
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