アディポネクチン/GBP28(以下アディポネクチンと記す)は脂肪細胞が特異的に分泌する蛋白質であり、最近、血中遊離脂肪酸を低下させ、インスリン抵抗性を改善するためにメタボリックシンドロームとの関連が注目されている。本研究では、アディポネクチンの全身組織発現型トランスジェニック(Tg)およびアンチセンストランスジェニックマウス(antiTg)を作製して、本蛋白質の生理機能の解明を試みた。Tgは野生型と違い、確かに全身組織がアディポネクチンを発現していたが、成熟するに従い血中濃度に有意な差は見られなくなった。一方、antiTgでは血中濃度が有意に低下しており、また雄副精巣脂肪組織が著しく減少していた。雌マウスでは成熟すると、血中濃度の月経周期内変動が大きく影響して、環境変化による血中濃度の変動が観測し難かったために、詳細は解析は雄マウスを使用した。 絶食させるとanitTgは体重の減少速度が野生やTgに比べて大きく、また48時間後に腸管出血死しやすいことを見出し、死亡前段階では運動低下や体温低下が観察された。腸管出血の原因は、腸内細菌の腸管経由での侵入によるものと推定された。このことはアディポネクチンが生体防御にも関与することを示唆したが、しかし、antiTgでは栄養供給が絶たれたときに環境変化に適応して、脂肪代謝を制御する能力が弱くなっているという可能性もある。 そこで、エネルギー代謝量を変化させる別の環境変化として、5℃寒冷暴露を行ったところ、antiTgは、野生やTgマウスに比べて体温が早く低下し始めた。これは、antiTgが体温維持のための脂肪代謝の調節に異常である可能性の方を支持している。
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