リゾボスファチジン酸(LPA)アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)は、リン脂質やトリアシルグリセロールのde novo合成に関与する酵素である。近年、肥満、動脈硬化、炎症など、種々の病態の原因のひとつに、脂質代謝の異常や昂進が関与することが考えられている。特に、脂肪細胞に、脂肪、すなわちトリアシルグリセロールが蓄積する肥満は、他の生活習慣病の原因となることが示唆され注目されている。LPAATβは、脂肪細胞にトリアシルグリセロールを蓄積できない病気、リポジストロフィーの原因遺伝子であると報告されている。病気との関連を明らかにするため、本研究はLPAATアイソフォームの分子レベルでの性状を解析することを目的とする。 本年度、目的を達成するため、1)LPAATアイソフォームの発現系を構築した。LPAATαとLPAATβの発現を正確に制御するため、Tetracyclineによる遺伝子発現調節系(Tet-On系)を用いた。非脂肪細胞のCHO細胞を用いて発現系を構築すると、培地へのTetracyclineの添加に応答したLPAATαまたはLPAATβの発現が観察された。LPAAT活性の上昇とともに、トリアシルグリセロールの生合成の上昇が観察された。細胞をオイルレッドで染色すると脂肪滴の成長が観察された。以上の結果は、LPAATβだけでなく、LPAATαの発現亢進もトリアシルグリセロールの蓄積をもたらすことが明らかとなった。 2)昨年度の研究では、LPAATαとLPAATβは、アシルCoAの脂肪酸部分の特異性が若干異なるものの、非常に性質が似ていることを示し、アイソフォームの役割分担や活性調節機構の解明に関する糸口は全く無かった。本年度の研究では、N末端およびC末端の欠失変異体を作成しその性状を検討した。LPAATαに関して、N末の第一膜貫通領域までを削っても活性が存在すること、C末20アミノ酸を削除すると活性が上昇することを発見し、特にC末端部分が活性を本来抑制していることが示された。一方、LPAATβの場合は、N末端およびC末端を6アミノ酸削った場合、正常に発現することができなかった。N末端を削った場合、プロテアーゼによる限定分解を受けた。またC末を削った場合は速やかに分解され、LPAATβの場合、機能にN末およびC末の構造が非常に重要であることが明らかとなった。
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