酸素ストレスによりNF-κBが活性化されるという報告が従来よりなされているが、細胞外から加えた過酸化水素に応答してNF-κB活性化が強く引き起こされる細胞がある一方、活性化が全く認められない細胞が存在する。受容体型チロシンキナーゼである上皮増殖因子(Epidermal Growth Factor ; EGF)受容体を高発現する上皮系腫瘍細胞A431は、EGF刺激によりNF-κBが活性化するというユニークな性質を有しており、同時に過酸化水素処理によっても強くNF-κBが活性化する。そこで、チロシンキナーゼ系下流のシグナル分子とNF-κB活性化経路との接点を探った。A431細胞をEGFまたは過酸化水素で処理すると、IKKα、IKKγを含むIKK複合体が速やかに活性化した。また、EMSA法によるNF-κB活性化検出の際に、NF-κBサブユニットのひとつであるに対するp65抗体を添加したところ、バンドがシフトしたことから、EGFまたは過酸化水素処理によって、IKKによるIκBαのリン酸化を介する、いわゆるcanonical pathwayを経てp65/p50 heterodimerのNF-κBを活性化することがわかった。酸化ストレスとの関与が報告され、チロシンキナーゼ系と接点のある情報伝達分子について、選択的阻害剤を用いて関与の有無を検討したところ、前年度の検討では、PI-3 kinaseの阻害剤であるLY294002が弱いながらも阻害効果を示し、PI-3 kinaseの関与が考えられたが、LY294002以外のPI-3 kinase阻害剤を検討したところ、全く阻害が見られなかったことから、A431細胞における過酸化水素によるNF-κB活性化にPI-3 kinaseは関与していないことが明らかになった。PKCについては、PKCα、β、γ、δ、ε、μ、ξは、いずれもEGF、過酸化水素によるNF-κBの活性化に関与していないことがわかった。また、PKDおよびSrcについては、酸素ストレスの下流でSrcが活性化し、その下流でPKDの活性化を経て、NF-κBの活性化が導かれるという報告があるが、PKD、Srcいずれの阻害剤もNF-κBの活性化を全く阻害せず、両者の関与はないことが示唆された。一方、アクチン細胞骨格に結合し、酸素ストレスの下流で活性化することが知られているチロシンキナーゼAblに対する阻害剤は、NF-κBの活性化を有意に阻害した。
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