血管恒常性の維持や血管新生において、一酸化窒素NOは必須であり、その産生調節機構は解明すべき課題である。NOは血管内皮細胞の一酸化窒素合成酵素eNOSにより産生される。熱ショック蛋白質90(HSP90)はeNOSに直接結合するeNOS調節蛋白質であり、またeNOSをリン酸化するAktにも結合する。 NO産生刺激によりチロシンリン酸化が認められている。その意義を明らかにするために、我々はチロシンリン酸化HSP90(pHSP90)の活性を検討した。 ウシ大動脈内皮細胞をブラジキニンBKまたは血管内皮増殖因子VEGFで刺激すると、eNOS活性化がみられた。このときeNOS-HSP90-Akt三者複合体が形成され、HSP90はチロシンリン酸化されていた。チロシンキナーゼ阻害剤は、これらの反応をすべて抑制した。内皮細胞から、リン酸化されていないHSP90(nHSP90)とpHSP90を精製し、活性について検討した。nHSP90とpHSP90は精製eNOSの活性を促進した。pHSP90の最大促進効果にはnHSP90と比較して有意差がみられなかったが、低濃度での促進効果は有意にnHSP90より大きかった。低濃度でのpHSP90はeNOSへの結合もnHSP90より増大していた。同様に、pHSP90の精製Aktへの結合もnHSP90より増大していたが、いずれのHSP90もAkt活性には影響を与えなかった。また、精製蛋白質による三者複合体の形成は、pHSP90の存在により促進された。pHSP90の効果は、HSP90阻害剤のゲルダナマイシンにより、すべて抑制された。以上の結果から、HSP90のチロシンリン酸化は、HSP90のeNOSおよびAktに対する結合親和性を増加させ、効率的なeNOS活性化に重要であることが示唆された。 血管内皮細胞において、src特異的阻害剤PP-2はHSP90チロシンリン酸化およびeNOS-HSP90複合体形成を抑制し、eNOS活性化を阻害した。また、精製srcは精製HSP90をチロシンリン酸化した。従って、srcがHSP90をチロシンリン酸化するプロテインキナーゼとして示唆された。
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