研究概要 |
上皮や内皮細胞は、細胞外基質への接着が生存に必須であり、基質から遊離するとアポトーシスを起こし死滅する。この現象はanoikisと呼ばれ、生体内において細胞が、本来の存在環境以外の場所で生存、増殖することを防ぐ重要な機構である。我々はMEK阻害剤がヒト乳がん、大腸がん細胞株においてBH3-only proteinであるBimELのリン酸化依存的分解を抑制し、BimEL蛋白量を増加させることによりanoikis感受性を誘導することを示した。MEK阻害剤以外の物質を調べたところ、Hsp90阻害剤である17-Allyllaminogeldanamycin(17-AAG)、17-N, N-dimethylaminoethylamino-17-demethoxy-geldanamycin(17-DMAG)が、大腸がん細胞株DLDI、HT29にanoikis感受性を誘導した。このときBimELの増加は観察されず、Hsp90阻害剤はMEK阻害剤とは異なる機序でanoikis感受性を誘導することが示唆された。またHsp90阻害剤は細胞間で感受性の差が大きく、調べた細胞株の中で最も高感受性であったHT2pは、DLD1とはIC50に約100倍、最も低感受性であったHCT15とは約1,000倍の開きがあった。各株間でHsp90量に差はなく、Hsp90阻害剤処理による変動も無かったが、Raf等のHsp90 client proteinは高感受性細胞株ほど低濃度で減少していた。またHsp70は高感受性細胞ほど低濃度で誘導され、細胞によってHsp90阻害剤によるストレスの強さが異なることが示された。現在、Hsp90阻害剤感受性が異なる細胞株数種において、Hsp90 ATPase活性やATPase活性を制御するaccessory proteinの量など感受性決定に関与する可能性のある細胞因子を調べている。
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