上皮や内皮細胞は、細胞外基質への接着が生存に必須であり、基質から遊離するとアポトーシスを起こし死滅する。この現象はanoikisと呼ばれ、生体内において細胞が、本来の存在環境以外の場所で生存、増殖することを防ぐ重要な機構である。培養系におけるがん細胞の性質のなかで、足場非依存性増殖は造腫瘍性と最も相関が高いことが知られ、がん細胞が生体内でanoikisを免れ、本来の存在環境以外で増殖できる能力を反映しているものと考えられる。足場非依存性増殖阻害を指標に探索を行なえば、anoikisを誘導する新しい抗がん剤のシーズを発見できることが期待される。我々はMEK阻害剤が、ヒト乳がん細胞2株に対し、非接着状態でのみapoptosis、即ちanoikis感受性を誘導することを見出した。その機構を明らかにするため、apoptosis関連蛋白質の変化を調べたところ、MEK阻害剤処理によりBH3-only proteinの一つであるBimELの蛋白量が増加していた。BimEL量は接着の有無に関わらず増加したが、非接着状態でのみミトコンドリアに移行した。またMEK阻害剤処理によりBimELのリン酸化が低下することが予想された。In vitroでBimELはERKによりSer 69がリン酸化されたので、リン酸化特異的抗体を作製し、この残基が実際に細胞内でもリン酸化されていることを確認した。さらにこのリン酸化はユビキチン化の引き金になっていることが明らかとなった。anoikis感受性が誘導されるがん細胞株では、もともとのBimの蛋白レベルが非常に低く、これらの細胞ではMEK-ERK経路の活性化によるBimELのリン酸化、分解促進がanoikis回避の主要な機構であると考えられた。以上から、Bimはanoikis誘導の重要な決定因子であり、MEK阻害剤感受性予測の指標となることが示唆された。
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