エステラーゼ(CES)は、活性中心にセリン残基を有するセリン水解酵素の一種で、エステルやアミド結合を有する化合物を効率良く加水分解することから、近年バイオアベイラビリティーの改善や副作用の軽減を目的として開発されてきたプロドラッグの代謝活性化において、極めて重要な役割を果たしている。そこで、本研究においては、ヒト肝、脳毛細血管内皮細胞および小腸上皮粘膜に発現しているエステラーゼの遺伝子の構造について明らかにすると共に、5'上流領域について詳細に検討することにより転写調節領域を明らかにし、臓器毎の発現調節機構を詳細に調べると共に、転写調節の個人差について明確にするために、本年度はゲノムDNAの中で、5'上流の転写調節領域と考えられる部位の解析を行い、肝エステラーゼの転写調節領域と比較すると共に、ルシフェラーゼを用いたレポータージーン活性、ゲルシフト法を用いて転写調節領域に関する詳細な検討を行った。その結果、CES1ファミリーに属する2つの遺伝子CES HU1a(AB119997)およびCES HU1b(AB119998)の基本転写領域にに存在するSp1およびC/EBP結合領域が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さらに現在HAB協議会から入手した全ての検体(49検体について)CES HU1aおよびHU1bのmRNA量をリアルタイムPCR(現存のリアルタイムPCR装置)を用いた絶対定量法により測定したところ、それぞれのmRNA発現量に大きな個人差があることが判明した。また、全ての検体においてCESHU1aの発現量がCESHU1bの発現量よりも多いことが明らかとなり、これはCES HU1に存在するC/EBPおよびSp1結合部位の違いに基づくことが示唆された。今後、個体差の原因および小腸や脳における発現調節機構についても詳細に検討する予定である。
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