我々は、収束型合成経路による抗腫瘍性抗生物質フォストリエシンの立体選択的全合成に成功した。本合成経路は、フォストリエシンをセグメントA(不飽和ラクトン構造部分)、セグメントB(連続不斉中心を有するアルコール部分)およびセグメントC(トリエン構造部分)の3個のセグメントに分割し、それぞれを合成した後カップリングさせるもので、フォストリエシンだけでなく他のフォストリエシンファミリーに属する天然物(ロイストロダクシン類やスルフトリエシン等)、さらには非天然型立体配置を有する誘導体、部分構造欠損型誘導体や他のフォストリエシンファミリー天然物とのハイブリッド型誘導体等、様々な誘導体合成に応用可能な柔軟性に優れた合成経路であると考えられる。 本研究においては、本合成経路の有用性を証明するとともにその特徴を利活用して、1)フォストリエシンと同じくプロテインホスファターゼ2A選択的阻害活性を有する天然物ロイストロダクシンの全合成の達成、2)フォストリエシンの部分構造欠損型類縁体やロイストロダクシンとのハイブリッド型類縁体等、各種類縁体の合成を行い、3)プロテインホスファターゼ阻害活性に関する構造活性相関を明らかにすることを目的として研究を行った。その結果、ロイストロダクシン類の全合成研究に関しては、ロイストロダクシンBの全炭素骨格を持つ鍵中間体の立体選択的合成に成功し、また、本研究の過程において末端ジオール類の位置選択的アシル化法の開発にも成功した。一方、類縁体合成に関しては、フォストリエシンのトリエン構造に着目した各種類縁体およびロイストロダクシンの構造的特徴であるアミノエチル基に着目した類縁体を立体選択的に合成することに成功し、プロテインホスファターゼタイプ特異的阻害活性について興味深い知見が得られた。
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