細胞内レドックス状態を制御するチオレドキシン還元酵素(TrxR)には、3種類のアイソザイム、TrxR1、TrxR2、TrxR3が存在するが、このうちTrxR1は様々な刺激によりその発現が誘導されることが知られている。本年度の本研究では、ウシ頸動脈由来血管内皮細胞(BAEC)を重金属の1つ、カドミウムCdに曝露した際に観察されるTrxR1の発現誘導機構について、詳細な検討を行った。まず、TrxR1遺伝子の転写開始点の上流-1692から+49の領域をクローン化し、レポーター遺伝子を作成した。このレポーター遺伝子をBAECに導入した後、細胞をCdに曝露したところ、転写活性の亢進が見られたことから、CdによるTrxR1遺伝子発現の誘導は転写活性の上昇によるものであることが示唆された。更に、欠失変異体および部位特異的変異体を用いた解析により、TrxR1遺伝子の-62〜-48に存在する抗酸化剤応答配列antioxidant responsive element(ARE)がTrxR1遺伝子の発現誘導に必須であることが示された。AREに結合する転写因子の1つ、NF-E2-related factor-2(Nrf2)は、Cdにより活性化されることが知られている。そこで、更に、抗Nrf2抗体を用いたChIPアッセイ、Nrf2のdominant negative体の発現実験を行ったところ、Cdにより活性化されたNrf2が、TrxR1遺伝子のARE配列を介し、TrxR1の遺伝子発現を亢進することも明らかとなった。Nrf2はCdに加え、ヒ素Asや多くの抗酸化物質により活性化されることが報告されており、Nrf2により発現誘導されるTrxR1は、様々な環境物質に対する生体防御機構において重要な働きを担っていることが予想される。
|