1.エストロゲン生合成酵素(アロマターゼ)はエストロゲン生合成の律速酵素であり、エストロゲン産生に必須の酵素でもある。我々はヒト副腎皮質由来腫瘍細胞株であるH25R細胞にアロマターゼが発現していることを明らかにした。その発現はフォルスコリン(FSK)刺激により上昇し、卵巣や脂肪細胞における発現に選択されていると同様なpromoter IIとpromoter I.3が選択されること、さらに本細胞のアロマターゼ活性は上皮成長因子(EGF)およびプロスタグランジン(PG)E_2刺激により上昇し、酵素の転写が活性化されることなどを明らかにした。そこでこのアロマターゼ発現細胞H295Rを用い、アロマターゼ活性あるいは転写に及ぼす影響を測定するin vitroアッセイ系を構築し、エストロゲン産生に及ぼす化学物質の影響を検討した。 2.本アッセイ系を利用して、プラスチック(PVC)の可塑剤として多用されているフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)およびフタル酸ジブチル(DBP)、およびそれらフタル酸エステル類のヒトにおける代謝物であるフタル酸モノエチルヘキシル(MEHP)およびフタル酸モノブチル(MBP)のアロマターゼ活性に及ぼす影響を検討した。その結果、これらのフタル酸エステル類の中で、MEHPは、細胞毒性を示さない濃度においてアロマターゼ活性および遺伝子発現を有意に抑制した。さらに、0.001-0.3mM濃度のMEHPは、FSK、EGFまたはPGE_2それぞれの刺激によって誘導されたCYP19遺伝子のpromoter II活性を、濃度依存的に抑制した。従って、MEHPはヒトにおいてアロマターゼ遺伝子の転写活性を抑制することにより、内在性エストロゲン産生に対して抑制的に作用する可能性が考えられる。
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