1.ライディッヒ細胞(ブタ)の初代培養系を利用して、アンドロゲン産生に及ぼす化学物質の影響を検討するためのin vitroアッセイ系を構築した。このアッセイ系を利用して、有機スズ化合物トリブチルスズ(TBT)、ジブチルスズおよびトリフェニルスズがテストステロン産有意を抑制することを見出した。TBT暴露はトロピックな刺激による細胞内cAMPの上昇を抑制した。同時に、TBT暴露はCYP17 mRNAレベルの低下を引き起こすことから、転写レベルでCYP17の活性を抑制することを明らかにした。また、テストステロン産生に関与している酵素の一つである17β-HSD活性を特異的に阻害することも明らかにした。従って、これらの有機スズ化合物が精巣におけるテストステロン産生を抑制し、その機序としてステロイド合成酵素の転写レベルでの抑制や酵素阻害による可能性が示唆される。 2.エストロゲン生合成酵素(アロマターゼ)はエストロゲン生合成の律速酵素であり、エストロゲン産生に必須の酵素である。我々はヒト副腎皮質由来腫瘍細胞株であるH295R細胞にアロマターゼが発現していることを明らかにし、その活性発現にpromoterIIとpromoter I.3が選択されること、さらに上皮成長因子やプロスタグランジンE_2刺激により転写が活性化されることを明らかにした。次に、このH295R細胞を用い、アロマターゼ活性あるいは転写に及ぼす影響を測定するin vitroアッセイ系を構築し、エストロゲン産生に及ぼす化学物質の影響を検討した。このアッセイ系を利用して、プラスチックの可塑剤として多用されているフタル酸ジエチルヘキシルの主な代謝物であるフタル酸モノエチルヘキシル(MEHP)がアロマターゼ活性および転写活性を抑制して遺伝子発現を有意に低下させることを見出した。その作用機序として、MEHPはオーファン核内レセプターNurr77の一過性の発現を誘導することによりアロマターゼ遺伝子の転写活性を抑制し、その結果としてアロマターゼ活性が低下してエストロゲン産生が抑制される可能性が示唆された。
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