黄砂は、他の環境物質と同様に、鼻腔内暴露されると嚥下作用によって呼吸器系組織のみならず腸管にも少なからぬ量が達する。したがって、食物アレルギー誘導阻止に重要な役割を果たしている経口免疫寛容は黄砂暴露によって影響を受ける可能性がある。そこで、本研究では黄砂の経口免疫寛容に与える影響について検討した。抗原特異的免疫応答は実験動物DBA/1Jマウスに抗原hen egg lysozyme(HEL)をアジュバントcomplete Freund's adjuvant(CFA)とともに皮下注射することによって誘導した。経口免疫寛容はHEL免疫前5日間同抗原1mgを経口投与することによって誘導した。黄砂(1、10、100μg)はHELの各経口投与直前に経口投与した。免疫後21日に抗原特異的T細胞の増殖反応を^3H-thymidineの細胞内取り込みによって定量化した。また、血清中の抗HELIgG抗体を測定した。Th1免疫反応としては抗HELIgG2aおよびIFN-γ産生を指標とした。Th2免疫反応の指標としては抗HELIgG1およびIL-4ならびにIL-10を測定した。その結果、経口免疫寛容誘導によるHELに対するT細胞の増殖反応の抑制は、有意差はみられなかったが、黄砂によって阻止される傾向がみられた。同様に、免疫寛容による抗HELIgG抗体産生の抑制は黄砂によってブロックされた。Th1およびTh2経口免疫寛容の誘導は共に黄砂によって抑制されたが、抑制の程度はTh1の方がより大きかった。以上の結果から、黄砂暴露によって経口免疫寛容は破綻される可能性がある。また、経口免疫破綻の程度はTh2よりもTh1免疫系がより影響を受け易いと思われる。
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