研究概要 |
植物毒素リシンを中心に高分子性生物毒素の、現場検知から実験室予試験法、確認・同定法に至る一貫した裁判化学的検査法を構築した。 1.現場検査法の確立 免疫ストリップBTAシステムの、リシン、黄色ブドウ球菌腸毒素(SEB)、ボツリヌス毒素に対する検出感度は概ね0.1μg/mlであり、小麦粉等の白い粉や有色試料は妨害を与えなかった。試料の加熱(80℃以上)、次亜塩素酸(0.001%以上)、ホルムアルデヒド(0.3M以上)の添加により偽陰性となった。金膜にラクトース系糖鎖結合セラミド誘導体を吸着させたセンサーチップを用いてリシンの表面プラズモン共鳴吸収分析を行ったところ、概ね10ng/mlの検出感度が得られた。 2.簡易検査法の確立 SDS-ポリアクリルアミドゲル(8%)電気泳動において、リシンはβ-メルカプトエタノール還元前処理により31〜32kDaの2本のバンドを、非還元処理では60kDa当たりに1本のバンドを与えた。 3.質量分析法の検討 マトリックス:シナピン酸のLinearモードでのMALDI-TOF-MS測定を行ったところ、SEB及びリシンからはm/z28425及びm/z62594付近に[M+H]^+に相当するブロードなピークが認められた。ワイドポアODSキャピラリーカラムとギ酸アセトニトリル溶媒の分離系によりLC-MS(ESI)分析を行ったところ、SEBは、LC溶出後半にブロードなピークとして現れ、m/z836を中心とした多価イオン群質量スペクトルが得られ、デコンボリューション処理の結果分子量28,364が得られた。リシンは、LC溶出最後半にテーリングしたピークとして現れ、m/z1000付近のピークを中心とした不明確な多価イオン群質量スペクトルが得られた。 4.消化LC-MS分析法の確立 SEB及びリシンについて、グアニジン、DTTで変性・還元、ヨード酢酸でアルキル化後、トリプシン処理を行い、ワイドポアODSキャピラリーカラムとギ酸アセトニトリル溶媒の分離、ESI検出系のLC-MS分析を行ったところ、LC上多数の消化ペプチドピークが得られ、各ピークのMS/MS分析により特徴的な開裂イオンが得られ、マスコット解析により、10ヶ(SEB)及び13ヶ(リシン)のペプチドが同定された。検出限界は、概ね3μg/ml(SEB)、6μg/ml(リシン)であった。
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