研究概要 |
細胞性粘菌の柄細胞分化には、細胞が分泌する脂溶性因子DIF-1が必須である。申請者等は、DIF-1が粘菌柄細胞分化誘導だけではなく、ヒト及びマウスの白血病細胞の増殖を阻害し、再分化の誘導をすることを明らかにしてきた。しかしながら、本物質の薬理学的ターゲットを含め、その詳細な作用機構については未だに明らかになっていない。 本研究では、DIF誘導体及びDIF様因子に属する新規の抗腫瘍因子の探索とその作用の解析を行い、以下の結果を得た。 ・K562ヒト白血病細胞において、DIF-1がErk活性を抑制することによってG1 cyclinsの発現を抑制し、Rbタンパク質を脱リン酸化することによって細胞周期をG1期に停止することを示した。 ・DIF-1の薬理学的なターゲットの少なくとも1つを世界に先駆けて発見した。即ち、DIF-1がcAMP分解酵素の1つであるphosohodiesterase1(PDE1)に直接結合して酵素の阻害をすることを示した。 ・D.discideumから単離した新規α-ピロノイド化合物dictyopyroneAとdictyopyroneBはそれ自身単独ではDIF様作用は示さないが、低濃度のDIF-1存在下には柄細胞の分化誘導を促進する作用を持つことを発見した。 ・D.mucoroidesの子実体から、新規芳香族化合4-methyl-5-n-propylbenzene-1,3-diol(brefelamaide)を単離した。白血病細胞K562とHL60細胞に対する抗腫瘍作用を調べた結果、本物質は20-80μMの濃度で用量依存的に細胞の増殖を抑制した。 ・キノコのスクリーニングを行った結果、ナラタケモドキとマスタケの子実体に、DIF様因子の活性があることを見出した。
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