研究概要 |
"腸管でのグリセロール吸収を担う新規輸送担体(トランスポーター)が存在する"という仮説を検証するべく,ラット小腸の摘出反転腸管組織(in vitro系)を用いてグリセロール取り込みの解析を行った.反転腸管でのグリセロール取り込みは顕著な濃度依存性(飽和性)を示し,担体輸送の関与が示唆された.担体輸送のミカエリス定数は0.77mMであった.受動輸送の関与もみとめられたが,担体輸送が線形となる低濃度域では,担体輸送が主な輸送メカニズムとなっていた(70%程度の寄与率).さらに,この担体介在性グリセロール輸送は,Na^+依存性であり,代謝阻害剤(2,4-ジニトロフェノール)によって阻害されることが明らかとなった.また,グリセロール誘導体であるグリセロール-3-リン酸,類似の多価アルコール型構造を有する薬物(クロラムフェニコール等)や一部の多価アルコール類によって阻害された.しかし,小腸において知られている代表的な栄養物質の担体輸送系の基質(D-グルコース等)のなかで阻害効果を示したものはなかった.以上の結果は,グリセロール取り込みに関わる輸送担体がグリセロール及び一部の類似物質に特異的なNa^+依存性の二次性能動輸送担体であることを強く示唆するものである.速度論パラメーターからは,高い輸送効率で知られるD-グルコースの輸送担体に匹敵する輸送効率をこの輸送担体が有することが示唆された.本輸送担体の経口薬物送達への応用等が期待されるところである. ラット小腸の閉鎖腸管ループ(in situ系)でのグリセロール吸収についても若干の検討を行い,その吸収(輸送)特性が反転腸管で見出された輸送特性とほぼ合致することを確認した. 現在,ラット小腸の灌流系を用いたin situレベルでのより詳細な輸送解析のほか,HCT-15培養細胞系を用いた細胞レベルでの輸送解析にも着手し,検討を進めているところである.
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