本年度においては、アドレアマイシン(ADM)の刺激に応じてcytomegalovirus (CMV)-LTR配列中のTREにAP-1が作用し、下流の目的遺伝子が発現するか否かを検討する目的で、CMV-LTRと、red-shift green fluorescent protein (rsGFP)遺伝子をレポーター遺伝子として有するプラスミドベクターを導入した発現系を構築し、ADM負荷または負荷を中止した際の転写因子の発現挙動およびレポーター遺伝子の発現量の変動について検討を行った。 その結果、ADM負荷により24時間後にc-fos mRNAおよびc-jun mRNA量の増加が観察された。また、その際、rsGFP mRNA量の有意な増加が認められ、CMV-LTRを有するプラスミドベクターに導入された目的遺伝子の調節には、一部c-Fosおよびc-Junの関与が示唆された。しかしながら、細胞内c-fos mRNA量ならびにc-Jun mRNA量と、rsGFP mRNA量の間に量的ならびに時間的な有意な相関関係が認められなかったことから、導入遺伝子の調節には、これ以外に、c-Fosおよびc-Junのリン酸化過程やヘテロダイマーが形成されてAP-1となった後の核への移行過程などの関与等が考えられた。さらに、rsGFP mRNA量ならびにrsGFPタンパク質はADM負荷後96時間では3倍以上に増加し、また、ADMの負荷中止後に有意に減少することが確認された。したがって、CMV-LTR配列を有するベクターにおいて、ADMの刺激に応じて下流の目的遺伝子の発現調節が可能であることが示唆された。 以上得られた結果は、ADMを用いた化学療法施行時の副作用軽減を目的とした遺伝子治療において、目的遺伝子の発現調節に関する重要な情報をもたらす結果であると考えられた。
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