研究概要 |
これまでに、パラコート(PQ)やアドレアマイシン(ADM)の刺激に応じてcytomegalovirus(CMV)-LTR配列中のTREにAP-1が作用し、下流の目的遺伝子(rsGFP)が発現することを報告してきた。この機構には一部活性酸素が関与しており、ADMによる目的遺伝子発現のスイッチングの可能性が示唆された。そこで、本年度は、その他の抗腫瘍薬による影響を観察するため、5-FUおよびメトトレキサート(MTX)を24〜72時間負荷し、rsGFP発現量を経時的に観察した。その結果、0,1μM〜1mMの5-FU濃度負荷によってrsGFPの発現量が1.4〜2倍増加した。しかしながら、このrsGFPの増加はfree radical scavengerであるαトコフェロールの共存によっては減少しなかった。したがって、5-FUによるrsGFPの発現量の増加は、PQやADMによる目的遺伝子発現のスイッチングのメカニズムと異なることが推測された。さらに、MTXの添加によっては、昨年度のCDDPの添加結果と同様にrsGFP発現量の増加は認められなかった。そこで、活性酸素を発生するという点で共通点が見られる虚血条件を用いて、human neuroblastomaに虚血条件を与えた後のmRNAの転写量をDNAchipにより解析を行った。その結果、数種のシグナルを検出でき、抗腫瘍薬の種類によりTREとの結合作用を有す調節蛋白質の発現に対する強度の差が明らかとなった。以上の検討から、抗悪性腫瘍薬の副作用軽減を目的として種々の遺伝子を導入した細胞に対して、抗悪性腫瘍薬を負荷した際の目的タンパク質の発現挙動ならびに転写調節因子との関連性が明らかになった。本研究結果は、遺伝子治療時における目的遺伝子導入後の発現調節に関して、重要な情報をもたらすものであると考えられる。
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