我々は、すでにヒト乳腺上皮細胞(HMEC)をtrypsin処理することによって、授乳期機能を有し、能動輸送系を発現した単層膜の形成に成功したことを報告した。今回、(1)モデル薬物としてcimetidine、atenolol、およびverapamilを用いて、この培養細胞系の乳汁移行性評価系としての有用性について検討し、また(2)HMECの代わりに乳腺上皮細胞株を用いた実験系の構築を試みたので、以下に要約を示す。 (1)輸送担体の関与を検討するためにpH勾配非存在下(apical側(A)およびbasal側(B);pH7.4) での実験を行なった。Cimetidineのみで輸送方向性が観察され、HMECを介した乳汁移行への輸送担体の関与が示唆された。一方、生理的条件下での薬物の分布を検討するためのpH勾配存在下(A ; pH7.2、B ; pH7.4)での実験では、atenololおよびcimetidineのA方向への輸送が、またverapamilではB方向への輸送が、それぞれその逆方向よりも大きく、前者は乳汁中へ分布しやすく、また後者は分布しにくいと考えられた。これらの結果は、in vivoデータから推察される結果と一致しており、培養細胞系は能動輸送の関与および定性的に乳汁-血液間の分布を評価できると考えられた。 (2)HMECの代用となるヒト乳腺上皮細胞株を探索するため、3種の正常ヒト乳腺上皮細胞株(MCF12A、MCF12FおよびHMT-3522 S1)を用いて検討を行った。MCF12Fは、HMECと同様に機能分化し、能動輸送機能を有する細胞であった。また、その細胞株は、主要なタイトジャンクション構成タンパクであるoccludinおよびZO-1 mRNAを発現していた。これらの結果は、MCF12Fがより強固な細胞間接着を形成する可能性を示し、HMECの代わりになる細胞株であると示唆された。
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