研究概要 |
医療従事者は、母親が薬物治療を受けているとき、授乳を介した乳児の薬物曝露に注意しなければならない。我々の最終目的は、乳児および授乳婦にとってより安全な薬物を明確にすることである。そのために、正常ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)を用いた乳汁移行性評価系の構築に関する検討を行ってきた。3回のtrypsin処理に抵抗性を示したHMEC(3-t-HMEC)は、単層培養によりタイトな単層膜を形成した。つぎに、EMEC培養系が機能分化した実験系であるかどうかを明らかにするために、機能分化の特異的な指標であるβ-caseinの産生についてRT-PCR法およびWestern blot法により検討した。その結果、3-t-HMECでは、mRNAおよびタンパクレベルの両方でβ-caseinの発現が検出された。さらに、透過試験ではその単層膜を介したtetraethylammonium(TEA)の乳汁方向への輸送方向性を示した。また、3-t-HMECでの基底膜を介したTEA取り込み実験では、その取り込み過程に飽和が観察された(Km=3.90μM,Vmax=2.03pmol/mg protein/min)。これらTEA輸送に関する結果は、有機カチオントランスポーターの存在を示唆し、カチオン性薬物の乳汁濃縮が起こる可能性を示している。RT-PCR法によるトランスポーター発現解析では、3-t-HMECでのヒトorganic cation transporter 1(hOCT1)およびhOCT3の発現を検出した。 これらの結果は、3-t-HMECでのトランスポーターの発現や物質輸送は、授乳期HMECでの輸送機能を反映していると思われ、本実験系の有用性は非常に高いと考えられる。
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