研究概要 |
血管は、主に内腔側に存在する血管内皮細胞と、その周囲を取り囲む壁細胞(平滑筋細胞・周皮細胞)によって構成されている。これら細胞の相互作用は血管の発生および機能維持に不可欠である。本年度は、骨髄から樹立した条件的不死化細胞株TR-BMEを用いて、骨髄由来血管内皮前駆細胞による血管壁細胞への分化とその調節因子を明らかにすることを目的とした。 TR-BMEは、骨髄由来血管内皮前駆細胞と同様、CD34,CD133,Flk-1を発現し、VEGF刺激によりmatrigel中で管腔構造を形成する分化能を保持していたことから、骨髄由来血管内皮前駆細胞モデルとなると考えられた。TR-BMEと脳毛細血管内皮細胞株TR-BBBの遺伝子発現を比較し、特異的に発現する遺伝子の検索を試みた。その結果、TR-BMEは、血管壁細胞に発現するcalvasclinやSM22、PDGFR-β、さらに血管壁細胞の分化・増殖に関与するPDGF-Rを多く発現することが明らかとなった。これらの結果からTR-BMEが、サイトカイン刺激により血管壁細胞へ分化する可能性が示唆された。そこで、TR-BMEの血管壁細胞への分化誘導実験を行ったところ、 TR-BMEは、血管内皮細胞の増殖因子を除くことでSMA、SM22の発現が増加し、収縮型血管壁細胞様に分化した。さらにTR-BMEは、血管壁細胞の増殖を誘導するPDGF-BBで刺激することにより合成型血管壁細胞へ可逆的に形質変換することが明らかとなった。分化制御因子の解明を目的として、TR-BMEを種々増殖因子で刺激した。その結果、bFGFは、SMAの発現を誘導せず、TR-BMEの増殖を濃度依存的に誘導した。さらにbFGFは、TR-BMEのCD133発現とmatrigel上での管腔構造への分化能を維持し、SMA、SM22発現を抑制した。これらの結果からbFGF刺激は、TR-BMEの未分化能を維持することが示された。 以上の結果から、骨髄由来血管内皮前駆細胞はこれらの性質により効率的に血管内皮細胞と血管壁細胞を増殖させ、血管発生を制御するものと考えられた。本研究により、骨髄由来血管内皮前駆細胞が、血管内皮細胞と血管壁細胞をターゲットとした新たな治療法の開発に利用できる可能性が示された。
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