癌転移機構の一つとして、癌細胞が球状凝集塊を形成して腫瘍組織から逸脱した後、リンパ管および血管において腫瘍塞栓となり転移叢を形成する現象が報告されている。しかし、その癌細胞凝集体の形成機構は不明であった。本研究では、癌組織に侵入する細胞である好中球が、ヒト乳癌細胞株、MCF-7細胞の球状凝集塊形成を誘導する因子を産生することを見出し、その因子の同定と凝集誘導メカニズムの検討を行った。 その結果、好中球が、その活性化刺激に応じてMCF-7細胞に対する凝集誘導因子を放出すること、また、好中球のその活性は、セリンプロテアーゼの阻害剤によって阻害されることを見出した。そこで、好中球の産生するプロテアーゼとして、精製カテプシンGと好中球エラスターゼについて調べたところ、いずれにも活性が見出された。ただし、カテプシンGは、エラスターゼよりも低いタンパク濃度で凝集を誘導したことや、それぞれの特異基質を分解する酵素活性を基準にした場合、カテプシンGは、エラスターゼよりもはるかに低い酵素活性で凝集を誘導したことより、カテプシンGのほうがより重要であることが見出された。実際の好中球の破砕物中の酵素活性も、カテプシンGのほうが高かったことからも、このことが裏付けられた。従って、好中球の癌細胞凝集塊誘導因子として、好中球プロテアーゼ、特にカテプシンGを同定することができた。 凝集反応の機構としては、この反応が2価イオンのキレート剤の添加で阻害されること、およびE-カドヘリンに対する抗体の存在下においても阻害されたことによって、E-カドヘリン依存的に凝集が起こることが示唆された。 これらの結果によって、好中球によって産生されたカテプシンGによって癌細胞がE-カドヘリン依存的に自己凝集を起こし、三次元凝集体を形成する機構を明らかにした。
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