研究概要 |
これまでに行ってきた安定同位体で標識したコルチゾールをヒトに投与するトレーサー研究から、内因性のコルチゾール、コルチゾンに注目した場合、尿中コルチゾールとコルチゾンの比が腎における11β-HSD2活性評価の良い指標となることを明らかにした。 平成18年度においては、健常人15名および杏林大学医学部付属病院腎臓・膠原病科に入院中の腎疾患患者68名を対象に、尿中コルチゾール、コルチゾンを[^<13>C_4,^2H_5]標識cortisol, cortisoneを分析の内部標準として用いるGC-MS法により測定し、コルチゾン/コルチゾール(E/F)の尿中濃度比の変化から、病態時におけるコルチゾール⇒コルチゾンの11β-HSD2の代謝酵素活性に関し、健常人との相違を詳細に比較検討し、腎臓の11β-HSD2活性の評価をおこなった。その結果、腎疾患患者における尿中E/F比は健常人と比較して全体的に低下しており、尿中E/F比が明らかに低値を示した患者は22名であった。特に、ネフローゼ症候群患者では全9名中7名,高血圧患者では全47名中14名,糖尿病患者では全20名中5名に尿中E/F比の顕著な低下が認められた。 また、腎機能低下と尿中E/F比との関連性を検討するため、対象患者をcreatinine clearance (CLcr)の値により、重度腎機能低下、中等度腎機能低下、軽度腎機能低下、正常の4段階に分類し、尿中E/F比評価の基準直線と比較した結果、腎機能低下と尿中E/F比低下との関連性は認められなかった。 さらに・ステロイド治療をおこなっている患者と他の患者とを区別して、尿中E/F比評価の基準直線と比較した結果、尿中E/F比低下患者22名中18名はステロイド治療をおこなっている患者であり、ステロイド投与患者の尿中E/F比はステロイド非投与患者と比較して低値を示す傾向にあった。 本研究結果はステロイド治療の影響を大きく受けている可能性が高く、今後は、ステロイド治療を受けていないにも関わらず11β-HSD2活性が低下している患者を中心に症例数を増やし、腎疾患や高血圧などの疾患と11β-HSD2活性との関連性について検討する必要がある。
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