研究概要 |
アラキドン酸からは様々な生理活性物質が生合成される。それらには、プロスタグランジン系、ロイコトリエン系さらに第三番目の経路としてエポキシ体(epoxyeicosatrienoic acid, EET)が知られている。EETには5,6-EET,8,9-EET,11,12-EET,14,15-EETの4種類がある。EETの最も注目されている作用は、血管内皮由来過分極因子(EDHF)であるが、我々は、EETが細胞の低酸素応答に影響を与えることを見いだした。血管新生に関わる血管内皮増殖因子(VEGF)は低酸素状態によってその発現が増加することが知られ、典型的な低酸素応答因子である。当該研究ではEETの新機能を見いだし、この機構を解明することでEETの作用メカニズムそして血管の低酸素応答調節機構を解明していくことを目的としている。 低酸素下で培養細胞への薬物投与やRNAの単離ができる装置を構築した。これによって空気に触れずに細胞の処理ができ、酸化ストレスのない安定した低酸素環境の実験ができるようになった。まず、臍帯動脈血管内皮細胞(HUAEC)ミクロゾームを用いた検討では、14,15-EETと11,12-EETが加水分解されたと考えられる11,12-dihydroxyeicosatrienoic acidを生成した。そこで、HUAECに通常酸素濃度および低酸素状態で、11,12-EET,14,15-EET,血圧降下剤(アンギオテンシン変換酵素阻害剤)、アピゲニンを添加してVEGFの発現を調べた。後者2種の化合物はこれまで血管新生を抑制する可能性が指摘されているものである。後者2種の化合物は低酸素下でHUAECのVEGF発現を顕著に抑制した。一方、EETは構造によって抑制するものと促進するものの両方が見られた。これらの化合物はHIF-1αのタンパク質の安定化を調節しているようだ。
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