研究概要 |
我々は、アンジオテンシンII(Ang II)受容体遮断薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬が、肝再生に対して促進的に働いていることを明らかにしてきた。この結果より、Ang IIは肝再生に対して抑制的に、また、ブラジキニン(BK)は促進的に作用していることが考えられた。そこで、Ang IIやBKは肝細胞増殖因子hepatocyte growth factor(HGF)の産生を調節することにより肝再生を調節しいるとの仮説を立て検討を行った。肝再生モデルマウスに、Ang IIタイプ1(AT1)受容体遮断薬であるカンデサルタンを投与すると、部分肝切除後のS期移行細胞数の出現に明らかな増加が認められた。一方、Ang IIタイプ2(AT2)受容体遮断薬であるPD123319(1mg/kg/day,腹腔内)やBK受容体遮断薬イカチバント(1mg/kg/day,腹腔内)を同様に投与しても、S期移行細胞数の出現に影響は認められなかった。このことより、Ang IIはAT1受容体を介して肝再生を抑制する方向へ働いている可能性が考えられた。さらに、肝再生モデルマウスに浸透圧ポンプを用いてAng IIを持続注入し、血中Ang II濃度を上昇させたところ、部分肝切除によるS期移行細胞数の出現が抑制された。一方、AT1受容体ノックアウトマウスを用いて部分肝切除を行ったところ、野生型マウスで認められたS期移行細胞数の出現に比較して、有意なS期移行細胞数の増加を認めた。これらマウスにおける部分肝切除後の血漿HGF濃度について検討を行ったところ、血漿HGF濃度は、部分肝切除後24-48時間をピークとした血漿濃度の上昇を認めた。また血漿HGF濃度の上昇は、AT1受容体遮断薬の投与により有意に増強された。以上の結果より、Ang IIはAT1受容体を介し、肝臓の再生機構を抑制する方向に働いているものと考えられた。
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