研究概要 |
我々は、ラット小腸幹細胞(IEC-6)にmousePdx-1及びIsl-1を同時に発現させることで本細胞がインスリン産生能及び、培養液中へのインスリン分泌能を有することを報告してきた(Diabetes,51:1398-1408,2002)。一方、インスリン分泌を制御する因子としてATP-Sensitive Potassium-Channel Subunit Kir6.2(Kir6.2)が知られている。本蛋白は膵β細胞に特異的に発現しpotassiumの細胞内流入を抑制することでインスリン分泌を引き起こす膜蛋白であるが、その発現調節機構は未だ明らかにされていない。今回、小腸幹細胞が如何なる機序にて膵β細胞へと分化するかをIEC-6細胞及び膵β細胞であるRIN-5F細胞を用いてKir6.2の発現調節機構を検討することで行った。 mousePdx-1及びIsl-1を同時に発現させることで本細胞はKir6.2の蛋白発現を認めたが、Pdx-1を単独発現させたIEC-6細胞では本蛋白発現は認めなかった。次にAdeno-virus-Isl-1を作成し、IEC-6細胞にtrunsductionすると感染四日後にKir6.2蛋白の発現が認められた。Kir6.2のプロモーター活性をLuciferase assayにてインスリン産生IEC-6細胞を用いて検討すると二カ所の転写活性調節領域、すなわちSp1/Sp3結合領域(-1035/-939),及びFoxa2-結合領域(-1364/-1210)が存在し、それぞれ転写活性を上昇及び低下させることが示された。RIN-5F細胞でも同様の結果であった。Isl-1発現IEC-6細胞ではFoxa2発現量は非Isl-1発現細胞に比較し、有意に低下していたがKir6.2転写活性は逆に上昇した。Isl-1-siRNAを作成しRIN-5F細胞を用いて内因性Isl-1発現をノックダウンするとKir6.2の発現低下が認められた。 以上の事実よりIsl-1はFoxa2蛋白発現をnegativeに制御することでKir6.2遺伝子発現を増強しており、膵β細胞におけるIsl-1の重要性を示唆していると考えられた。
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