研究概要 |
【目的】我々はラット小腸幹細胞株(IEC-6細胞)を用いて転写因子pancreatic and duodenal homeobox gene-1(Pdx-1)及びislet factor-1(Isl-1)を同時に発現させることで、本細胞がインスリンを産生し培養液中に放出することから小腸幹細胞が膵β細胞へと分化すること(Diabetes, 51:1398-1408, 2002)、インスリン分泌に関与するpotassium inwardly rectifying channel(Kir6.2)蛋白発現がIsl-1により調節されていることを報告してきた(The Journal of Biological Chemistry. 280, 1893-1900, 2005)。一方、MafAは膵β細胞や水晶体細胞に発現する転写調節因子であり、膵β細胞においてはインスリンpromoterのRIPE3b領域と呼ばれるcis-elementに結合し、インスリン遺伝子の転写を活性化することが報告されている。今回これらの転写調節因子を成獣ラットの小腸に発現させることで小腸上皮細胞がインスリン産生能を獲得するか否かを検討した。【方法】8週齢の雄SDラットにstreptozocin(STZ)を尾静脈より(50mg/kg)投与し糖尿病ラットを作成した。次にIsl1及びPdx1を同時に発現するアデノウイルス(Ad-Isl-Pdx-GFP)、及びMafAを発現するアデノウイルス(Ad-MafA-GFP)を作成し、培養細(HEK293細胞)を用いて挿入遺伝子発現を免疫組織化学法にて確認した。STZ投与4日後にアデノウイルスをゾンデを用いて経口より投与し、その5日後に経口糖負荷試験(OGTT; glucose 1g/kg)を施行し血糖値、及び、インスリン値を測定した。OGTTの24時間後にラット小腸を採取し、RT-PCR法、免疫組織化学法にて、転写因子、及び、インスリン蛋白の発現を確認した。ControlはLacZ遺伝子を発現するアデノウイルス(Ad-LacZ)を作成し、実験を行った。【結果】Ad-LacZを経口投与し免疫組織化学法にて検討すると、空腸上皮細胞に発現が強く認められた。次にAd-Isl-Pdx-GFP、Ad-MafA-GFPを用いて検討すると空腸上皮細胞の約30%においてIsl1、Pdx1、MafA及びGFPの発現が確認され特に小腸内分泌細胞にその発現が強く確認された。以上の結果はアデノウイルスが空腸上皮細胞に感染したこと意味している。RT-PCR法を用いた検討ではAd-Isl-Pdx投与群、及び、Ad-MafA投与群ともにNeuroD,Pdx-1及びインスリン遺伝子の発現を認めたが免疫組織化学法による検討ではAd-MafA投与群でのみインスリンが小腸内分泌細胞に発現していた。空腹時血糖はAd-MafA投与群でcontrol群及びAd-Isl-Pdx投与群に比較し有意に低下しており、この時、血中インスリン値はAd-MafA投与群で有意に上昇していた。【結果】成獣ラット空腸上皮細胞にアデノウイルスを用い転写因子MafAを発現させることにより、空腸内分泌細胞はインスリン産生能を獲得し、STZを投与した糖尿病ラットの血糖値を改善させた。以上の事実は、MafA遺伝子の経口投与が糖尿病の新たな治療になりえる可能性を示唆している。
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