研究概要 |
咀嚼・嚥下機構と顎・口腔領域の骨、筋の形態学的特質との関連性を解明するために、有袋類のコアラをモデルとして咀嚼筋と顎関節を比較形態学的に検討し、以下の知見を得た。 試料としてオーストラリア、アデレード大学医学部解剖学講座所蔵の雌コアラ6頭(体重2,400g〜8,800g)の頭部標本の貸与を受けた。各個体の咬合効率の指標としてLanyon and Sanson(1986)の方法に基づき実体顕微鏡下で上顎臼歯の咬耗度を測定し、C.W.C.(composite tooth wear class)を算出した。咀嚼筋のうち咬筋は起始部ならびに停止部で幅と厚さを、顎関節は池田(1983)の方法により下顎頭と下顎窩の幅と厚をデジタル・キャリパーを用いて計測した。 C.W.Cは下顎頭幅と下顎頭厚とに有意に高い相関を示した(p<0.05)のに対して、下顎窩幅と下顎窩厚にはより低い相関係数を示し、顎関節幅指数(下顎頭幅/下顎窩幅×100)と顎関節厚指数(下顎頭厚/下顎窩厚×100)にはほとんど相関を示さなかった。さらにコアラの各指数の値を肉食動物(イヌ、タヌキ、ネコ)、雑食動物(ブタ、イノシシ)、草食動物(メンヨウ、ヤギ、シカ)の値(池田、1983)と比較した結果、下顎頭指数は肉食動物および草食動物とほぼ同様の値を示したが、下顎窩指数は両者よりもやや低い値を示し、顎関節幅指数と顎関節厚指数は三者よりも高い値を示した。 コアラはユーカリの葉の咀嚼に際し特異的な顎運動を行うことが報告されており(Lanyon and Sanson、1986)、これらの特徴的な顎関節の形態はその顎運動の特異性と密接な関係を有する可能性が示唆された。 なお、上記の結果の一部は第16回国際解剖学会(2004年8月、京都)ならびに第110回日本解剖学会総会・全国学術集会(2005年3月、富山)において発表した。
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