慢性膵炎は、非逆可性に組織の荒廃が徐々に進行ずる炎症疾患で、間質増生と線維化が見られるほか、神経線維束の肥大化と増加が認められる。本疾患は頑固な痛みを伴うことから増生神経束は知覚神経と考察されているが、それらの神経の起源や性質、増生のメカニズムについては全く不明である。そこで本計画として、WBN/Kobラット(慢性膵炎モデル)をもちいて、慢性膵炎時に増生している神経束の特質について明らかにするトレーサー実験、免疫組織化学、および行動実験をおこなった。 膵臓からの逆向性トレーサーと、脊髄後根神経節からの順向性トレーサーの実験の結果、膵炎進行に伴って後根神経節のニューロン脱落が起こる一方で、(おそらくはその脱落を補うためた)残存する後根神経節からの末梢神経が過剰分岐し、結果的に神経増生の起こることが明らかになった。また組織化学観察から、これらの増生末梢神経はSubstance PやCGRPと言ったニューロペプチドを持ち、脱落した後根神経節細胞は小型ニューロンであることも判明し、痛覚との関連性が疑われた。さらに脊髄後角でc-fosが過剰発現していて、痛覚神経経路の持続興奮状態が証明された。さらに行動実験もおこなって痛覚との関係を確認した。一方、分岐増生している神経束の先端には神経成長因子受容体のほか、GAP-43とう神経突起発芽マーカーにも陽性であり、シナプス部特有のタンパク質を含有しながら、膵内神経節ニューロンやその周囲のサテライト細胞に接触していた。 本研究と平行しておこなっている研究では、中枢神経でも神経活動に呼応して細胞新生が活発になること、特にサテライト細胞の分裂が促されることを明らかにしている。また、消化器系他臓器での神経増生をより明らかにする目的で、神経脱落を伴うHirschsprung病に注目し、ラット腸管神経叢の正常発生過程の詳細も明らかにした。
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