昨年度は反芻動物(ウシ)耳下腺のもつ大量の重炭酸イオン分泌機能に注目し電気生理学および分子生物学的手法を用いた実験を行った結果、ウシ耳下腺腺房細胞に起電性Na^+-HCO_3^-共輸送体(NBCe)が存在することが明らかになった。また、これらの実験からNBCeによるNa^+とHCO_3^-の見かけ上の輸送比率が1:2であったことから、NBCeが血管側膜に機能的に存在した場合、耳下腺細胞内へのHCO_3^-流入および膜過分極を介して、管腔内へのHCO_3^-分泌に重要な役割を果たしうる可能性がある。そこで本年度は昨年度と同様にコラゲナーゼ処理により分離作製したウシ耳下腺腺房細胞の静止膜電位へのNBCeの関与についても詳細に調べた。パッチ電極内にK^+に富んだ溶液を使用し、cell-attachedモードで単一K^+チャネル電流の逆転電位を指標に実験を行った。25mM HCO_3^-を含まない細胞外液を用いた場合、その外液中のNa^+を除去しても僅かな膜電位変化しか認められなかった。しかし、25mM HCO_3^-を含む細胞外液を用いた場合、Na^+除去は大きな膜脱分極を引き起し、この脱分極はNBCeの阻害薬であるDIDS(1mM)の細胞外投与により大きく抑制された。また、細胞外液中にNa^+が存在している状態で、25mM HCO_3^-を添加すると膜過分極が観察され、DIDS(1mM)はその過分極反応を大きく抑制した。さらに、K^+チャネルの阻害剤であるBa^<2+>(1mM)を細胞外液中に存在させた状態で同様な実験を行ったところ、上記の膜脱分極および過分極反応は増強された。これらの実験結果はウシ耳下腺腺房細胞において、NBCeが前記のような生理学的役割を担う可能性を強く示唆する。ウシ耳下腺を実験系として用いることにより今後、NBCeの細胞内調節機構解明に向けて更なる進展が期待される。
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