起電性Na^+-HCO_3^-共輸送体(NBCe)は様々な上皮組織の基底外側膜に発現し、細胞内へのHCO_3^-流入あるいは細胞外へのHCO_3^-流出を介して経上皮的な一方向性HCO_3^-輸送に重要な役割を果たしていると考えられていますが、上皮組織に内因性に発現しているNBCeの輸送特性および細胞内調節機構について未だ不明の点が多く残されています。本研究プロジェクトでは大量のHCO_3^-分泌機能を有するウシ耳下腺に注目し、その腺房細胞に内因性に発現するNBCe電流を同定し、さらにその詳細な電気生理学的性質を明らかにすることを目的として研究を行いました。ホールセルパッチクランプ法を用いることにより、ウシ耳下腺腺房細胞には、細胞外Na^+およびHCO_3^-の両イオン要求性を持ち、細胞外DIDSにより抑制され、1:2という見かけ上のNa^+とHCO_3^-のカップリング比で説明できるようなNBCe様膜電流の存在が明らかになりました。さらに、ウシ耳下腺腺房細胞にはNBCe1-BのmRNAが存在し、クローン化したNBCe1-BをHEK293細胞に強制発現させた時に認められる膜電流とウシ耳下腺腺房細胞で認められるNBCe様膜電流の電気生理学的性質および薬理学的性質が非常に良く似ていることを明らかにできました。さらに、NBCe様電流がウシ耳下腺腺房細胞の静止膜電位の形成に重要な役割を果たしている可能性を示唆することができました。このような研究結果により、反芻獣耳下腺に存在するNBCe電流の電気生理学的性質が初めて明らかになっただけでなく、HCO_3^-分泌上皮に内因性に機能発現するNBCeの細胞内調節機構解明に向けた研究基盤を構築できたと考えています。
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