細胞の膜電位変化にともなって光学的性状が変化する膜電位感受性色素と多素子フォトダイオードアレイを用いた膜電位活動の光学的測定法には、脆弱な胚の心筋細胞に傷害を与えることなく、標本上の多数の領域から活動電位やペースメーカー電位を同時に記録できるという大きな特徴がある。本研究では、この光学的測定法によるイメージングを用いて、細胞が小さく脆弱であるために微小電極やパッチ電極の適用が困難な発生初期のニワトリ胚おいて、心筋の収縮がまだ見られない時期における心臓ペースメーカーの電気的活動の計測をおこなった。 実験には心拍動開始以前の7〜9体節期のニワトリ胚を用い、心臓をメロシアニン・ローダニン系膜電位感受性色素NK2761で染色した後、波長700nmの準単色光を照射し、16×16素子フォトダイオードアレイを用いた光学的同時測定システムにより標本上の256ヶ所の領域から膜電位活動の同時測定をおこなった。この測定結果から活動電位およびペースメーカー電位の波形およびリズムを解析をおこなうとともに、ペースメーカー領域からの興奮波伝播の速度および空間的パターンの解析をおこなった。 実験の結果、発生初期胚の心臓ペースメーカーのリズムへのアドレナリンの変時作用は弱く、しかも発生段階が若いほどその効果が弱いという結果が得られた。このことからアドレナリン受容体とそれに連なる情報伝達系の一連の機能はこの発生段階ではまだ充分形成されていないことが示唆された。
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