研究概要 |
気管における線毛輸送系は肺の主たる宿主防御機構であり、内因性或は外因性物質を喀痰として排泄し,肺を清潔に保っている。我々はラット気管のスライス標本を用いて、線毛運動をビデオ顕微鏡下に直接観察し線毛運動周波数(CBF)が測定できることを見い出した。ラット気管線毛運動はアセチルコリン(ACh), ATPにより活性化された。実験過程で、低浸透圧負荷(-30mM NaCl [240 mosM])がAChにより活性化されたCBFをさらに増強することを見い出した。この実験事実は、線毛輸送系の活性化のための低浸透圧吸入療法への応用が考えられる。本研究では低浸透圧の線毛運動に対する効果について検討した。低浸透圧によるAChにより活性化されたCBFの増強効果は、低浸透圧の程度には依存しなかった。また、細胞外Ca^<2+>を取り除くと低浸透圧による増強は起こらなかった。これらの事実から低浸透圧による増強は、浸透圧そのものではなく、低浸透圧により放出された生理活性物質により引き起こされている可能性が考えられた。低浸透圧負荷は、種々の細胞において細胞膨化に伴いanion channelsを活性化し、細胞内からATPを放出することが報告されている。ラット気管線毛運動はATPにより細胞内Ca2+の上昇を介して活性化され、ATP receptor (purinoreceptor)の阻害剤によりこの活性化は消失する。低浸透圧によるACh刺激性のCBF上昇の増強はpurinoreceptorの阻害剤により消失した。これらの結果から、低浸透圧負荷は気管上皮からATPの放出を引き起こし、この放出されたATPによりのACh刺激性のCBF上昇を増強していることが明かとなった。
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