研究概要 |
ラット海馬スライス標本を対象にCA1錐体細胞から細胞内記録し、酸素・グルコー・ス除去液を灌流する(in vitro虚血負荷)と、約6分後に急峻な脱分極電位が発生する。その直後に酸素・グルコースを再灌流しても脱分極し続け(持続性脱分極電位)、5分後には0mVに達して細胞膜障害が発生する。この持続性脱分極電位の発生には細胞内へのCa^<2+>流入とイオン透過型グルタミン酸受容体活性化が関与している。一方、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(シンデカン)はニューロンのスパイン形成と成長因子の細胞内シグナル伝達に関与し、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンは主に細胞外マトリツクス形成に関与している。それぞれの分解酵素であるheparinase II, III(1 U/ml), chondritinase ABC (20mU/ml)およびheparinの分解酵素heparinase I(1U/ml)を用い35℃,30分前処置すると、急峻脱分極電位発生潜時はheparinase II, III前処置で有意に延長した。酸素・グルコース再灌流30分後の膜電位回復を検討すると、heparinase II, IIIおよびchonddtinase ABC前処置は部分的ではあるが有意に再分極させた。即ち、ヘパラン硫酸およびコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの限定的分解は、in vitro虚血負荷による急峻脱分極電位発生を延長させ、虚血性神経細胞障害の発生を部分的に抑制することを示唆した。虚血性障害抑制機序としては、細胞外マトリックスの構造が粗になり細胞間隙のグルタミン酸濃度上昇が起こりにくくなったか、プロテオグリカンを介する細胞内情報伝達系(チロシンキナーゼあるいは低分子G蛋白質の活性化)が抑制されたためと考えられる。
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