本年度は主にエストロゲンが摂食行動に及ぼす影響のメカニズムを明らかにすることを目的とし、卵巣摘出雌ラットへのエストロゲン補充が摂食行動に及ぼす影響について検討した。7週齢の雌ラットの卵巣を摘出し、皮下にエストロゲンペレットを埋め込んだエストロゲン補充ラットとプラセボを埋め込んだプラセボ補充ラットにおいて摂食行動および、神経活動のカーカーであるc-Fosの視床下部における発現を検討した。プラセボ補充ラットでは、エストロゲン補充ラットに比べ著しく体重増加が大きくなった。この体重増加の差は、主に摂食量の差によるものであった。通常の摂食行動に関連する部位である弓状核におけるc-Fos発現は、プラセボ補充ラットでは、エストロゲン補充ラットに比べて有意に多かった。プラセボ補充ラットの摂食量は、明期、暗期ともにエストロゲン補充群に比べて多かったが、プラセボ補充群では明期の摂食量の割合がエストロゲン補充群に比べて有意に大きくなった。そこで、生体リズムの中枢である視交差上核のc-Fos発現を明期の初めと暗期の初めで観察した。視交差上核におけるc-Fos発現は、明期に多く、暗期に少ないという日内リズムがあるが、プラセボ補充ラットにおいては、明期のc-Fos発現が、エストロゲン補充ラットに比べて有意に少なく、明期と暗期のc-Fos発現の差が小さくなった。このことより、エストロゲンが直接または間接的に視交差上核に作用して摂食パターンを変化させている可能性が示唆された。また、48時間絶食後の摂食量および弓状核におけるc-Fos発現の増加に両群間の差は認められなかったことより、エストロゲンは刺激(絶食)により誘導される摂食行動には大きな影響を及ぼさないが、自発的摂食行動(spontenous feeding)に影響する可能性が示された。
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