摂食に伴い、ストレス刺激に対する視床下部の神経内分泌細胞の活動が減弱する。本研究はこの機構の解明を目的とした。摂食に伴い、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)が活性化される。そこで、PrRPを外来性に投与した。PrRP投与により不安行動が抑制され、PrRP中和抗体投与で不安行動が増強した。従ってPrRPが摂食に伴う不安減弱に関与する可能性がある。一方、自由摂食させた動物においては、摂食を制限した動物に比べ血中レプチン濃度が上昇し、グレリン濃度が減少する。レプチンを外来性に投与すると侵害刺激に対するノルアドレナリン放出が減弱しACTH反応も減弱した。グレリンを外来性に投与すると逆に侵害刺激に対するノルアドレナリン放出が増強し、ACTH反応も増大した。従って、摂食時のストレス反応の減弱に血中レプチン濃度の増加とグレリン濃度の低下が関与している可能性がある。また、摂食に伴い、体液の浸透圧が上昇する。そこで、次に体液の浸透圧上昇がストレス反応を減弱するかを検討した。食塩水負荷をすると、侵害刺激に対するオキシトシン放出反応が減弱した。侵害刺激に対する視床下部におけるノルアドレナリン放出反応も減弱した。さらに、ノルアドレナリンの起始核である延髄のA1ノルアドレナリンニューロンの細胞体の活動も、浸透圧上昇で減少するかをFos蛋白質の発現で検討した。しかし、食塩水を負荷しても侵害刺激によるFos蛋白質発現の増加は有意には変化しなかった。浸透圧上昇に伴い、オキシトシンニューロンの細胞体が局在する視索上核においてGABAの放出が増加した。以上のデータから、体液の浸透圧が上昇すると視床下部におけるGABA放出が増加し、ストレス刺激に対する視床下部のノルアドレナリン放出がシナプス前に抑制され、その結果、神経内分泌系のストレス反応が減弱する可能性がある。
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