視交叉上核の概日リズム振動体は、約24時間の周期で振動すると共に、網膜からの光情報を受け止めて「時計の時刻合わせ」を行っている。網膜と視交叉上核を結ぶ網膜視床下部経路の神経は、視交叉上核の腹外側領域に投射しており、主として興奮性アミノ酸を伝達物質としている。光情報はまず腹外側領域へ伝えられ、視交叉上核全体へ広がると考えられている。本研究の目的はこの視交叉上核内での情報伝達のメカニズムを培養系を用いて調べることである。 提出した本年度の研究実施計画は下記の通りであり、それについて次のような結果を得た。 1.各種伝達物質による位相変化の観察(光情報を媒介していると思われる各種伝達物質を投与し、リズムの変化を観察する。) 分散培養ではVIPが、スライス培養ではグルタミン酸のアゴニストの一つであるNMDA、及びVIPが光型の位相変化を起こすことが確認された(文献2)。 2.位相変化の阻害(伝達物質のアンタゴニスト、テトロドトキシンなどによって位相変化が阻害されるかどうか調べる。また、腹外側と背内側の連絡を物理的に絶ったスライスを用意し、伝達物質の効果を通常のスライスと比較することにより、腹外側を介して働く刺激と直接働く刺激を区別する。) この項目に関しては、予想に反した結果が得られた。 1)腹側と背側を分離したスライスを用意し、それぞれのリズムを調べたところ、背内側の固有の周期は腹外側および分離しないスライスの周期より短く、両者の特性が異なることが示唆された(文献1)。 2)テトロドトキシンはそれ自身位相変化を引き起こすことが確認され、神経伝達の抑制によって位相変化が阻害されるかどうかを調べる実験には不向きであることがわかった(文献2)。 3)VIPのアンタゴニストについては、使用した市販の試薬がアンタゴニストとして作用せず、現在有効なアンタゴニストを検索中である。 文献1:Eur.J.Neurosci.20:3119 文献2:Eur.J.Neurosci.(in press)
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