肥満は糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病のリスクファクターであり、脂肪組織の過剰状態である肥満は脂肪細胞の増殖や分化機構と関係している。すでに、3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化に伴いATF5 mRNA量が30%に減少することが見いだされている。このことは、ATF5が脂肪細胞の分化にも重要な役割を果たしていることを示唆する。いわばATF5は脂肪細胞の終末分化の決定因子としてではなく、分化を開始させないゲートキーパーとして働いていることが考えられる。また、ATF5の発現量が様々なストレスにより変化することも見いだされている。このことはATF5により発現が制御されている遺伝子群はストレス暴露下において生体の恒常性を維持するために働いている可能性を示唆する一方、ストレスによるATF5の発現の変動がその下流の遺伝子の発現パターンを乱し生体の病的な状態への移行を伴うことも予想される。しかし現在、ATF5により発現が制御されている遺伝子はほとんど分かっておらず、その様な遺伝子を探索することによりATF5の機能を推定することができると考える。SiRNAを用いて脂肪細胞への分化能を持つ3T3-L1細胞のATF5タンパク質のノックダウンを行い、DNAチップを用いて、正常細胞との間で発現量の変動が見られる遺伝子を同定することはATF5により転写制御を受ける遺伝子の探索を行う上で重要である。そこで、ATF5 SiRNAの作製を試みた。FLAG-tag付きのATF5を動物細胞で発現させ、その発現をWestern blottingにより確認した。この細胞へ作製したATF5 SiRNAを導入したところ、ATF5タンパクの発現が効率的に抑制されていた。現在、ATF5ノックダウンにより発現量が変動する遺伝子を検索中である。
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