研究概要 |
エストロゲン受容体(ER)サブタイプ(α,β)は、性ステロイドホルモンが果たす神経内分泌機構の分化という側面において重要な役割を担っていると考えられている。我々は、エストロゲン受容体βの性差が認められる領域として、視索前野脳室周囲核(AVPV)のあることを明らかにしているが、視床下部腹内側核も含まれることを見出した(Orikasaet.a1,2004)腹内側核での性差は、新生仔期のステロイドホルモンの影響で成立し、成体においても維持されることを明らかにした。雌雄の成体ラットにおいて性腺摘出後、エストロゲンを投与すると、腹内側核では雌雄共に、エストロゲン受容体βのmRNAとタンパクが両者とも発現の減少が認められた。同様に、他の脳領域での発現についても調べた。視索前野脳室周囲核では、エストロゲン受容体βmRNAの発現は、性腺摘出後のエストロゲン投与によって減少していたが、エストロゲン受容体β免疫陽性細胞の数は、対照群と比して変わらず、腹内側核での発現調節とは異なっていた。扁桃体内側核では、エストロゲン受容体βのmRNAとタンパク両者ともに発現は対照群と比して変わらなかった。以上の結果から成体において、エストロゲン受容体βの発現は脳領域特異的に制御されていることが示唆された。 さらに、我々は先行研究において、排卵調節に重要とされているAVPVにアンチセンスを投与し排卵の排止を認めた。これらのことから、ERβによって駆動される雌固有の神経回路があり、性分化の過程で形成されるだろうとの仮説を立てた。このような神経回路に特異的な神経伝達物質の候補を網羅的に調査するため、ラットのマイクロアレイ法によって検索した。出生直後の雄ラットを去勢し、雌型の発現パターンをもつ雄脳から、2時間以内に視床下部を採取した。対照群と遺伝子発現において差がみいだされたものにソマトスタチン遺伝子があった。視索前野性的二型核(SDN-POA)にソマトスタチンの発現を見出し、性差がみとめられること、周生期のホルモン環境に依存することを明らかにした(Orikasaet.a1,appearedonline2006)。
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