研究課題
基盤研究(C)
近年、食塩負荷脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用いた実験で、摂取植物性油脂の違いによりSHRSPの寿命が異なることが明らかとなってきた。そこで、本実験では植物ステロール含量が異なる植物性油脂が食塩負荷SHRSPの脳卒中発症・寿命に及ぼす影響について検討を行った。実験動物として6週齢の雄性SHRSPを用い、3%NaClを添加した精製飼料を基本とし、油脂源として、植物ステロール含量の異なる4種の植物性油脂を用いた。実験期間中、飼料、飲料水を自由摂取させ、脳卒中発症と寿命を観察した。血圧は、4週間後に測定、死亡ラットは剖検し脳卒中発症を確認した。脳卒中未発症の期間における飼料摂取量、体重増加は、4群間に差は認められなかった。投与4週間後の最高血圧は、米胚芽油群において、他の3群に比較し高値傾向が認められたが、各群間に有意な差はなかった。植物性油脂の植物ステロール含量に依存して寿命が短縮されることが明らかとなった。次に、寿命短縮作用が最も強かった米胚芽油に関し、その短縮作用機構の解明を目的とし、大豆油を対照として上記の同様の方法で研究を進めた。血圧と脳血管障害発症の動向を観察しつつ38日間自由摂取させ、麻酔下採血を行うと同時に肝臓、小腸を遺伝子発現測定用に摘出した。米胚芽油摂取により血清脂質が上昇し、これは主にHDL画分における有意な上昇に基づいていた。このHDL画分上昇は脳卒中発症とどのように関連するのか、その上昇作用機構を含めて今後の大きな課題である。肝臓では、米胚芽油摂取により、コレステロールおよびトリグリセライド含量が減少することが明らかとなった。そこで、肝臓でのmRNA発現動態を調べてみると、米胚芽油にはHMG-CoA reductase阻害作用があると考えられ、これが肝臓全体のコレステロール含量の有意な低値につながった主要な原因である可能性が高い。さらに、PPARα(peroxisome proliferator-activated receptorα)の標的遺伝子類の活性化が肝臓トリグリセライド減少に関与している可能性が考えられた。一方では、米胚芽油摂取によるLXRα(liver X-receptorα)mRNA発現減少に関連したABC(ATP-binding cassette transporter)G5、ABCG8 mRNAs発現減少から、肝臓よりの植物ステロールの排出が減少すると考えられ、肝臓に蓄積した過剰の植物ステロールが、何らかの形で寿命短縮作用に関与している可能性が考えられる。この点に関し、今後詳細な検討が必要と考える。
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