研究概要 |
前脳基底部の電気刺激が大脳皮質の神経栄養因子に及ぼす効果を調べた。ハロセン麻酔下・人工呼吸下のラットの頭頂葉皮質実質内にニューロペプチド・ダイアリシス・プローブを刺入して灌流し、細胞外液を100分毎に800分間採取した。ニューロトロフィンのうち、大脳皮質での産生量が多く、大脳皮質の虚血性障害を保護する作用を持つことが知られている脳由来神経栄養因子(BDNF)の量をELISA法で測定した。一側のマイネルト核に同心円刺激電極を刺入し、頻回電気刺激(200μA,50Hz、1s on/2s off)を100分間行った。Sham群においては、大脳皮質灌流液中BDNF濃度は、測定期間中5pg/ml以下と低値で安定していた。マイネルト核電気刺激群においては、刺激終了後300-400分後に大脳皮質灌流液中BDNF濃度が有意に増加した。BDNF放出増加反応がマイネルト核刺激中には見られず、刺激終了5-7時間後に見られたことから、BDNF放出増加反応は、大脳皮質細胞でのBDNF蛋白産生量の増加を伴う可能性が考えられる。そこで次に、マイネルト核刺激終了5時間後に脳を灌流固定し、BDNF抗体染色を行った。Sham群では、大脳皮質細胞の一部に弱く染まる細胞が見られたのに対し、マイネルト核刺激群では、大脳皮質における染色性がSham群と比較して、特に刺激と同側で強まり、BDNF陽性細胞数も増加した。以上の結果から、前脳基底部のマイネルト核から大脳皮質に投射するコリン作動性神経の賦活が、大脳皮質におけるBDNF蛋白発現を促進し、放出を増加させることが示された。このような大脳皮質におけるBDNF放出の増加が、以前に我々が報告したマイネルト核刺激による遅発性神経細胞死保護作用に部分的に関与する可能性が示唆される。
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