致死的不整脈を惹起し突然死するポックリ病の原因とされる「Brugada症候群」の薬理学的不整脈モデルを、イヌ摘出血液灌流右心室自由壁標本にKチャネル開口薬であるピナシジルとNaチャネル遮断薬であるピルジカイニドで灌流して作製した。このモデルでは、V1〜V2誘導心電図で「Brugada症候群」に特徴的なsaddleback型、coved型のST変化が惹起できた。coved型ST変化時に発生した心室細動では、心内膜側と心外膜側の量側に固定した48双極電極による興奮伝播様式の解析で、その興奮伝播様式が心内膜側と心外膜側で異なり、機能的ブロックを伴い両側間を回帰するリエントリーが機序として考えられ、心内膜側と心外膜側の間に機能的ブロックを起こす細胞群(M細胞)の存在が示唆された。又、「Brugada症候群」は男性に多く発生するが、今回のモデルでもcoved型ST変化時に発生した心室細動は雄イヌより作成した標本で多く観察され、「QT延長症候群」が女性に多いことと対照的であり、テストステロンの影響が考えられた。今後の動物実験モデル作成時に性差について深く考慮する必要性が示唆された(Circulation、2004)。 一方、今回右心室自由壁標本の心内膜と心外膜の中間の心室筋層にM細胞活動電位測定用電極を刺入し、単相活動電位を記録したところ、活動電位持続時間が心内膜側および心外膜側心室筋よりも長い心室筋の存在が確認されたが、ピナシジルおよびピルジカイニドで心室細動を惹起させても、機能的ブロックを伴い両側間を回帰するリエントリーを機序とする興奮伝播様式は観察されなかった。標本にM細胞活動電位測定用電極を刺入したことにより興奮伝播経路に物理的障碍が形成されたものと考えられる。
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