研究概要 |
特異的免疫抑制薬タクロリムスは、タンパク質脱リン酸化酵素カルシニューリンの活性阻害により薬理作用を発揮する。本研究では、分裂酵母の免疫抑制薬感受性変異体を単離することにより、カルシニューリンと機能的に関連する遺伝子を同定し、免疫抑制薬の副作用発現に関与する遺伝子および作用機序を明らかにすることを目的としている。本年度の成果は以下のとおりである。すでに単離しているits3変異体はホスファチジルイノシトール-4-リン酸5-キナーゼ(PI4P5K)遺伝子の変異体である。its3変異体が(1,3)-β-D-グルカン合成酵素阻害薬であるミカファンギンに感受性であり、(1,3)-β-D-グルカン合成酵素変異体である、bgs1変異体と合成致死となることから、its3変異体は細胞壁integrity欠損があることが示唆された。また、its3変異体では、低分子量Gタンパタ質Rhoのグアニンヌクレオチド交換因子であるRgf1の細胞内局在異常が見られたことから、its3変異体ではRgf1/Rhoシグナル経路の欠損が示唆された。さらに、PI4P5Kシグナル経路を明らかにする目的で、その下流因子の同定と解析を行った。PIP5Kの下流因子の一つとして、ホスフォリパーゼC遺伝子(plc1)を取得した。plc1過剰発現はits3変異体の表現型を抑圧し、そのためにはPlc1の酵素活性が必須であった。一方、プロテインキナーゼC(PKC)遺伝子(pkc1およびpkc2)の過剰発現はits3変異体の表現型を抑圧しなかった。以上の結果より、its3遺伝子産物であるPI4P5KはRho/PKCシグナル経路以外に、PKCシグナル経路とは別の、Plc1シグナル経路を介して細胞壁integrityを制御していることが示唆された。
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