ASK1ノックアウトマウス(ASK1-/-マウス)においては、野生型マウスと比較して下肢虚血後の血管新生の減弱と血流回復遅延がみられるが、その機序について詳細な検討を行った。野生型マウスと比較してASK1-/-マウスにおいては、下肢虚血部位での白血球、マクロファージおよびTリンパ球の浸潤が著明に減少していた。また、虚血部位でのVEGF、MCP-1の発現も著明に減少していた。培養血管内皮細胞とドミナントネガティブASK1の組換えアデノウイルスを用いた実験から、活性酸素で活性化されるASK1がVEGFおよびMCP-1の発現増加に直接関与していることがわかった。さらに、マウス下肢虚血モデルにおいてMCP-1の中和抗体を投与したところ、血管新生は著明に抑制され、MCP-1の血管新生における関与が証明された。以上から、虚血により活性化されたASK1は炎症細胞浸潤、VEGFやMCP-1の発現増加を介して、血管新生を促進する。in vivoおよびin vitroの実験から、VEGF、MCP-1、アンジオテンシンIIによる血管新生作用の機序にも、ASK1が関与していることがわかった。さらに、血管リモデリングの分子機序を明らかにするために、カフ留置によるマウス血管肥厚モデルを作製したところ、野生型マウスに比べてASK1-/-マウスでは血管内膜肥厚が著明に減少していた。培養平滑筋細胞を用いた実験から、その機序として酸化ストレスで活性化されたASK1が平滑筋細胞の増殖や遊走を介して内膜肥厚に関与していることがわかった。一方、骨髄細胞のASK1の関与についても検討するために、野生型マウスとASK1-/-マウス間で骨髄細胞移植をおこなったが、血管内膜肥厚の程度に影響はなく骨髄細胞の関与は少ないと考えられる。以上から、ASK1は血管新生や血管リモデリングの新たな治療標的分子として期待される。
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