研究概要 |
私たちはこれまでに活性リン脂質であるリゾホスファチジン酸(LPA)が,培養ウシ大動脈内皮細胞と同様にマウス大動脈組織標本において,内皮細胞における流れ刺激受容の初期応答として,LPA濃度及び流れ刺激強度に依存した,特徴的な[Ca^<2+>]_i上昇現象(Ca^<2+>Spots)を引き起こし、その後の血管組織応答として収縮応答を引き起こすことを明らかにしてきた。本研究ではそのメカニズムについて以下の方な検討を行った。ddY系雄性マウスの胸部大動脈を摘出後,血流方向に切り開き,fluo-4/AMを負荷した後,自作の流れ刺激負荷装置の流路部分に固定した。流れ刺激はシリンジポンプを用いて負荷し,個々の細胞のCa^<2+>応答は,多光子励起レーザー走査型蛍光顕微鏡システム(RTS200MP, Bio-Rad ; Ti : S laser, Spectra-Physics)を用いて観察した(Ex ; 780nm, Em;450-600nm)。1μMLPA適用及び流れ刺激(20or40dyne/cm^2)により内皮細胞のCa^<2+>応答と,それに遅れて平滑筋細胞のCa^<2+>オシレーションが観察され、ほぼ同時に平滑筋の長軸方向に沿った短縮が認められた。LPAにより誘発される血管収縮反応は,トロンボキサンA_2/プロスタグランジンH_2受容体阻害薬であるSQ-29548(300nM)の適用およびトロンボキサンA_2合成系の合成酵素阻害薬であるOKY-046(100nM)並びにアスピリンの前処置(30μM)によりほぼ完全に抑制された。以上の結果から,LPAは,シェアストレス存在下で,内皮細胞のCa^<2+>応答を介してトロンボキサンA_2/プロスタグランジンH_2の産生・遊離を促進し,これらの物質による血管組織の収縮反応を誘発することが示唆された.すなわち、病態時に高まることが想定される高濃度のLPAは,高いシェアストレス(20or40dyne/cm^2)が共存する状況下で,内皮細胞のCa^<2+>応答(Ca^<2+>-spot)を介した,プロスタグランジンH_2/トロンボキサンA_2の産生・遊離反応を促進し,その結果,血管組織の収縮反応を誘発することが示唆された。
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