申請者らは、神経幹細胞から平滑筋細胞に分化誘導する系を確立し、この細胞を三次元培養して人工の平滑筋組織に構築すると、脳血管作動薬により平滑筋様の収縮弛緩を発生することを見出した。したがって、生体内には神経幹細胞由来の平滑筋細胞が新たに存在する可能性が考えられる。さらに申請者らは、in vitroにおいて同じ神経幹細胞が内皮細胞の形態的特徴である敷石状の細胞へと分化することも見出している。以上のことより申請者は、神経幹細胞は血管前駆細胞的な発生ポテンシャルを持ち合わせていて、神経幹細胞が中枢神経系の細胞のみならず内皮細胞や平滑筋細胞に分化し脳血管を形成するものと考え、本研究を計画するに至った。そこで、本研究計画の平成16年度では、神経幹細胞が内皮細胞に分化し、内皮細胞の機能的特徴を発現するかをin vitroで検討した。なお、神経幹細胞より分化した内皮細胞、もしくは神経幹細胞をコラーゲンゲル中に包埋すると血管腔構造を形成することはすでに申請者らが科学研究費補助金研究(13672309)で達成している。 内皮細胞の機能的特徴のひとつにアセチル化LDLの取り込みがある。そこで、神経幹細胞より形成された血管腔構成細胞がアセチル化LDLを取り込むか否かを検討したところ、アセチル化LDLの取り込みが観察された。さらに、神経幹細胞を3日間ディッシュ上で分化誘導することで分化した敷石状の内皮細胞もアセチル化LDLを取り込んだ。次に、神経幹細胞より分化誘導した内皮細胞が、脳実質血管の内皮細胞の機能的特徴を反映しているのか調べる目的で、血管腔形成能についてマウス脳より単離培養した内皮細胞と比較検討した。脳実質血管内皮細胞による血管腔構造の形成は、TGF-β1により優位に促進され、その促進作用はTGF-β1中和抗体の添加により抑制された。一方、VEGF、PDGF、BMP2、Angiopoietin-1は管腔形成促進作用を示さなかった。同様のサイトカイン感受性は、神経幹細胞による血管腔形成で観察された。以上のことより、神経幹細胞は脳血管を構成する内皮細胞に機能的分化することが明らかとなった。
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