ニューロンやアストロサイトなどの中枢神経系の細胞に分化することが出来る神経幹細胞は、発生段階において脊椎動物の中枢神経系のさまざまな領域に存在する。また、神経幹細胞はその数は少ないものの成体の中枢神経系にも存在している。我々は、マウス胎児由来の神経幹細胞をコラーゲンゲル中で三次元培養すると、血管様構造が形成されることを見出した。血管は、内膜層を構成する内皮細胞と中膜層を構成する壁細胞(平滑筋細胞もしくはペリサイト)から成る。そこで、神経幹細胞から内皮細胞と壁細胞への分化の可能性について検討したところ、神経幹細胞が管腔構造を形成する能力を有する内皮細胞と、収縮能を有する平滑筋細胞へ分化することを見出した。神経幹細胞はもともと神経管を構成する外胚葉由来の幹細胞であり、胎生期や成体において、脳や脊髄の中枢神経系に限って存在することを考慮すると、神経幹細胞から血管構成細胞への発生ポテンシャルは、脳血管の形成過程に関与する可能性が最も高いのではないかと考えられる。そこで次に、EGFPを発現させた神経幹細胞を脳室内に移植したところ、海馬領域において血管様構造が形成された。 以上の結果より、外胚葉由来の神経幹細胞が脳血管前駆細胞的な機能を有し、脳血管の形成や再構築に関与することが明らかとなった。本研究成果は、脳血管形成機構の新たな可能性を示すとともに、脳循環疾患の発症機構の解明や治療薬開発に寄与できるものと考えられる。
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