研究概要 |
一酸化窒素(NO)と同様に、血管内皮細胞から産生され平滑筋を弛緩させる因子として発見された内皮由来過分極因子(EDHF)は、いまだその本体や血管弛緩作用機構に共通した見解がえられておらず、生理・病態生理的意義についても明らかにされていない。本研究では、共焦点蛍光顕微鏡を用いた血管平滑筋細胞の膜電位変化と収縮・弛緩反応を同時に可視化する方法を確立し、この新しい手法を使ってEDHFの本体やその作用を明らかにすることを目的としている。 平成16年度は、共焦点蛍光顕微鏡を用いた平滑筋細胞の膜電位および収縮弛緩反応の測定方法を確立した。すなわち、平滑筋細胞の膜電位および血管収縮弛緩変化を再現よく検出することを可能とした。測定方法は以下の通りである。10-12週齢Wistar系雄性ラットより腸間膜動脈を摘出しリング状標本を作製、Krebs-Henseleit液で満たしたglass bottom dishに固定した。膜電位感受性色素(DiBAC_4)を添加した後、共焦点蛍光顕微鏡にセットした。あらかじめフェニレフリンを添加し血管を収縮させた後、アセチルコリンを添加しEDHFを産生させることにより弛緩させ、この間に生じる蛍光強度の変化を経時的に測定した。また、膜電位測定時に得られる画像をNIH-Imageを用いて解析することにより、薬物処置により生じた血管収縮弛緩反応を測定した。平成17年度は、この方法を用いて以下の検討を行った。14-20週齢生活習慣病モデルSHR/NDmcr-cpラットおよび正常動物Wistar-Kyoto(WKY)ラットより腸間膜動脈を摘出しリング状標本を作製、EDHFの反応性を検討した。その結果、高血圧と肥満を自然発症するのに加え、高脂血症、高インスリン血症、高血糖を重積して発症しているSHR/NDmcr-cpラットの腸間膜動脈では、EDHFによる過分極反応および弛緩反応はともに、WKYラットに比べ低下していることを見いだした。さらに、一酸化窒素依存性弛緩反応はむしろ増強していることをみいだしており、このことからNOとEDHFとの問に調節機構が機能していることが示唆された。本研究に関連して、ラット腎動脈ではNOによりEDHF産生は負に調節されている(Life Sciences,74,2757,2004)こと、また、生活習慣病モデルラットSHR-cp胸部大動脈では血管拡張機能が低下しているが、その機序として内皮細胞からのNO産生は高まっているにも関わらず平滑筋のNOに対する弛緩反応性が低下していること、NO産生亢進は増大した酸化ストレスに対する生体の防御機構である(Life Sciences,78,1187,2006)ことを報告した。
|