研究概要 |
本年度はまずガス状化学物質の中でも近年電子部品洗浄剤として需要が高いものの,その中枢神経への影響については未だ不明な点が多い1-ブロモプロパン(1-BP)に着目し,1-BPの直接影響を1)アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いた中枢神経伝達物質受容体機能に対する影響,2)海馬神経回路への影響,3)培養神経細胞を用いた細胞内シグナル伝達系に対する影響から検討した。 野生型[α1β2γ2S]GABA_A受容体を発現させた卵母細胞においては,GABA誘発電流に対して1-BPは増強作用を示した。さらにαサブユニットのSer270をIleに置換し,揮発性麻酔薬の作用を消失させた変異αサブユニットを含むGABA_A受容体[α1(S270I)β2γ2S]を発現させた卵母細胞では,1-BPの作用は野生型の場合と比較して有意に減弱した。一方,神経型ニコチン性アセチルコリン受容体[α4β2]を発現させた卵母細胞においては,1-BPはアセチルコリン誘発電流を濃度依存性に抑制した。さらにラット海馬スライス標本を用い,CA1ならびに歯状回領域における誘発電位を細胞外記録し,そのGABA作動性フィードバック抑制に対する1-BPの影響を検討したところ,有意な増強作用を示した。以上の結果から,1-BPは一般の有機溶剤と同様に鎮静・麻酔作用を示し,その作用機序は揮発性麻酔薬と類似のものである可能性が考えられる。 さらに培養神経細胞(神経膠腫株)を用いて神経栄養因子の発現に対する1-BPの影響を検討したところ,1-BPは脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を抑制し,その機序としてcAMP依存性の転写因子CREBの活性化を阻害することが考えられた。BDNFの発現変動はシナプス可塑性と関連が深いことが報告されており,この点も踏まえて次年度は1-BP曝露モデル動物を中心に中枢神経系への影響を検討したいと考えている。
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