スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は活性化血小板から大量に放出されることから、血管壁リモデリング、炎症、がん浸潤・転移などの血小板活性化を伴う病態においてなんらかの病態生理学的役割を担っていることが想定されている。しかし、その実体と分子機序は現在ほとんど明らかにされていない。本研究において、我々は世界に先駆けて、(1)S1P産生酵素、スフィンゴシンキナーゼ(SK)トランスジェニック(Tg)マウスが加齢に伴って心筋リモデリングを自然発症することを見い出した。生後2ヶ月頃より心筋の線維化を生じ、加齢に伴って増悪する。雌雄における重症度の相違は無い。心エコーにて心筋収縮力の軽度低下を認めるも、心肥大、心室拡張はおこらない。ノーザン解析によりANFなどの心筋リモデリングの指標とされる遺伝子発現を認める。今後病態生理の解明をめざしたい。また、(2)S1P受容体のうち、S1P2サブタイプがB16メラノーマ細胞をマウス皮下に移植した場合、腫瘍形成をS1P(局所皮下注射)用量依存性に抑制することを見出した。我々はすでに、B16メラノーマ細胞に内因性に発現するS1P2がS1Pによる細胞運動と細胞外マトリックス浸潤の抑制性制御を担っていることを明らかにしている。また、in vivoにおいて血行性肺転移の抑制性制御を担っていることも明らかにした。このような知見のうえに、腫瘍形成の抑制性制御のメカニズムを検討中である。特にS1P2ノックアウトマウスを用い、宿主のS1P2受容体の関与の有無を明らかにしたい。
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